02、マーケッター・リサーチャーのための心理学講座社長ブログ これからのマーケティングリサーチを考える

マーケッター・リサーチャーのための心理学講座 第2回<認知心理学とはなにか(後編)>

マーケッター・リサーチャーのための心理学講座

人間の限界とは

佐野
「人間にはいくら訓練してもできないことがある?」
渡邊
「出来ないことはいくらでもある。あることを覚えるというのも、我々の日常生活の中でもそうですよね、いくら言語を学習出来るとしても100の言語を覚えられる人はいない。一晩で辞書を全部覚えられる人もいない。同時にいろんなことをマルチタスクでやると言っても人には限界がある。その限界みたいなものが頭の中のアーキテクチャのせいだ、というようなやり方で考える訳です。意思決定も思考もそうで、自由ではない。ただ、自由ではない理由みたいなものが頭の中にあって、その情報処理の流れ方をきちんと調べていくと、後々役に立つかもね、という話です。」
佐野
「そういう意味だと、出来ないことを何で出来ないのか、構造的な側面からできないことを説明するのも、認知心理学のひとつの役割ということですか。」
渡邊
「そうですね。だからある意味、やる気がないからなのか、そもそもそれは人としては難しいことなのかを考える。例えば、人間を20年間訓練したら何でもできるかという問題を想定した時に、できないことがあります、と考えるのが認知心理学です。我々の脳は、万能チューリングマシンとしてのコンピュータというよりは適応マシンとしてのコンピュータなのです。その意味では何らかのアーキテクチャが組み込まれているのですね。我々はずっと生きている訳じゃないので、時間にも制限があって、その中で子孫を残すっていう適応の過程の中で、この行動みたいなものが作られてきたのだとすると、この行動にはおそらく癖があるはずです。なので、モノの見方や行動にもバイアスがあるはず。つまり、すべての情報を処理するようなシステムにはなっていないはずで、必要なものだけをやるようになっている。そのために、注意だとか記憶というシステムが無駄にならないように、非効率にならない程度に入っている。それを紐解いていこうという立場が、私の考える認知心理学です。」

猿と人間との違い

佐野
「猿と人間を分けているものは何か、みたいな話になると、猿と人間はDNA的にも相当程度共通していて、情報処理パラダイムだけから見るとだと両者はそんなに変わらないのかもしれません。」
渡邊
「変わらないですね。」
佐野
「けれども、両者を分けているところ、例えば思考の質が違うとか言語を使えるとか、そういうところの適応の仕方でかなり違っているということなのでしょうか?」
渡邊
「違っていると思いますね。よく言われるのは、適応するべき環境が違うということです。人間も霊長類ですけど、霊長類っていうのは当然他に比べると我々と非常に良く似ている訳です。鳥とか魚と比べると似ている。姿かたちも似ていますし、視覚優位っていうのも似ていますし、複雑な社会を作るっていうことも似ている。そういう意味では、さっき言ったように感覚から知覚に至るまではほぼ我々と同じと考えてもいいでしょう。そのあとの認知になったところで、かなり違ったところが出てくる。認知心理学というのは、そういうところを調べているのであって、なぜ我々はあることが出来るのか、あるいは人間らしい間違いをするのか。そのレベルのことを理解しようとすると、我々の認知のプロセスの中に歪みとかバイアスみたいなものがあって、それらをいちいち調べていく必要がある。この現実の社会の中で、何であの店には行列が出来ていて、何でこの人が首相になっているか、何でトップはこういう風にふるまうのかとか、そういうところを知るためには、人間の癖みたいなものをきちんと研究していく必要があったりするのかなと思います。」
佐野
「適応論パラダイムだけで人と猿の違いを説明できるわけではなく、情報処理パラダイムも関わってくるということですね。。」
渡邊
「いわゆる至近要因としての認知の癖です。行動や認知の要因はたくさんあって、何でこういうことをしているのかっていうことに対する答え方もいくらでもあるのですね。ひとつは、適応論的パラダイムというのはそれが生き延びるために必要だからという、究極要因と言いますか、しかし、それは実は説明していることになっていない。それに対して、メカニカルになぜそれが起きているか、頭の中がこうなっていて、だからこういう反応が出るというのとは別な説明の仕方ですよね。当然その2つの説明の仕方をしないと、説明したことにならない。言い方を変えましょう。機械論的な説明と目的論的な説明という2つの説明の仕方があります、適応論的パラダイムは当然目的論的な説明なのです。何々のために、と。機械論的説明というのは情報処理パラダイムで、こういう事が起きたのはこうこうこういう順番があってこうなって出力がこうなりましたっていう説明になります。日本語では、どのようにして?という質問と、なぜ?をいう質問が結構混ざってしまうことがあります。」
佐野
「WhyとHowが一緒になっているのですね。」
渡邊
「そうですね。その意味では、情報処理パラダイムに関してはHowが、適応論的パラダイムに関してはWhyの方が重要です。当然、Whyも重要です。Howが出てくるためには、このWhyがあるからだ、という話です。だから、Whyが変わればそのHowを変えることが必要になってくる。だから柔軟性が必要になってきて、目的が変われば当然情報処理が変わっても構わない。もっとも、それがどのくらい柔軟に変わるかというのも、一つの研究対象だと思います。」

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