(株)トークアイ代表取締役CEO 佐野良太 × 首都大学東京准教授 水越康介氏
新進気鋭のマーケティング学者水越康介先生の話題の新刊「本質直観のすすめ」について対談しました。
2014年3月19日
場所:トークアイ グループインタビュールーム
佐野:今日は、水越先生の新著「本質直観のすすめ。」についていろいろと伺いたいのですが、普通のインタビューというよりは、我々も「対話」を軸に新しいリサーチを提案していますので、先生との「対話」を通じてリサーチの何か新しい可能性について、この本に書かれている以上のお話ができればと思っています。
水越:よろしくお願いいたします。
外部の情報で外部の世界の答えは得られるか
佐野:最初にこの本のタイトルの「本質直観」ですが、「本質直観」とはあまり耳慣れないというか、聞き慣れない言葉ですね。しかもそれがマーケティングリサーチに関係しているというところがなかなか一般の人というか、業界の人間にとってもピンと来ないのではないのかなという気がします。
水越:本の中にも書いてあるのですが、本質直観というのは哲学の用語です。そのベースにあるのは相手と議論するよりは、自分の確信がどういうふうに成立しているのかを考えたほうがいいのではないかということです。もっと遡れば、外側に何か探しにいくというのは、(机の上のコップを指して)例えばこれがコップかどうかというのを確かめるということですが、とても難しい作業です。最近のSTAP細胞の話ではないですけれど、それが実在するかどうか、本当にあるかどうかという探し方というのは、探せないことはないと思うのですけど、あくまで一つの方法だと思います。もう一つの方法というのは、なぜSTAP細胞があると自分が思っているのかとか、これがSTAP細胞だと確信できるのかというのを自分の中で問い直すことです。どちらかというと、その「問い直す」作業のほうが大事ではないか?というのが本質直観の考え方だと思います。
佐野:その「本質直観」をこのような形で提言しようと思われたのはなぜですか?
水越:昔から大事だとは思っていたのですが、特に最近になってビッグデータとか、ネットを使って手軽に調査ができるようになりました。そうしたリサーチでいろいろな情報が集まるようになったときに、外部の情報で、外部の世界で答えがわかるような気がする、昔以上にわかるようになった気がするのですが、たぶんそうなった気がするだけで、実際問題としてはそんなに変わっていない。そのことを少し冷静に考えたらどうか?というのが、ちょうどこのタイミングでこの本を出版した理由です。
佐野:従来型のマーケティングリサーチは自然科学における方法論をそのまま移植したものであって、ニーズや欲求というようなものがある程度顕在的にあった時代には、それによってある程度確度が高い結果が得られた。しかし今やそのニーズとか欲求は顕在化していない。つまり、もう欲しいモノはあまりないので、それを従来と同じ方法でやってもあまり新しいモノというか、輝きのあるモノは見つけられないのではないか、ということですね。
水越:そうですね。特に本の中で議論しているような「お客さんの心」とか「本心」とか、それからニーズというものは、外にあるのかどうかよくわからないということを、もう少し考えたほうがいいのではないかということです。
佐野:我々は社会で長い期間教育を受けるわけですが、そこでは外部の世界に何か答えがあって、それを見つけにいくとか、効率よく発見する能力にたけた人間が偉いというシステムの中で育っているわけです。そういったものが、だんだん通用しなくなってきているという気がします。
水越:あると思います。リサーチの一般的な方法は、さっき言われていた自然科学ベースになっていると思うのですが、そもそも自然科学でいけると思っているのは自分達であり、社会の了解に由来しているのです。その根本的なところはやっぱり見直していかないと、片一方だけやっている感じになってしまいます。何かモノを対象化してとらえて、本当にそれがあるかどうかをチェックすることで答えがわかるという考え方が物理的な科学の世界でずいぶんと成功してきた分、、その考えが「こころ」のような問題にも適用できると思い込んでいるのかもしれません。
「相手の心」とか「本心」は、どこまで行ってもわかりようがない
佐野:なるほど、よくわかります。第3章に書かれている「答えは外部にはない」というのは、相手が潜在的に持っているとか、無意識の中に持っているとかそういうものでもないということですね。
水越:さっきの話の延長線上だとは思うのですが、特に「相手の心」とか「本心」と言った場合には、どこまで行ってもわかりようがないというのが出発点にあります。むしろ、「自分の心」の方では、こんなことを思っているというのは確信できている感がありますよね。こちらのほうが出発点になる。「なぜ今、相手が怒っていると(自分が)思っているのか?」というのを考えたほうが、相手が本当に怒っているかどうかを相手に聞いて確認するという作業よりもやりやすいし、確かなことなのではないかという、それが基本的な考え方かなとは思います。
佐野:なるほど、「我思う、故に我あり」ということですね。
水越:デカルト系の話に行くと、またちょっとニュアンスが変わるのかもしれないのですが、最初に、その「我が」というよりも、「思っている」というのが出発点かなと思います。何かを考えてしまっているという。
佐野:日本人というのはやはり周囲に合わせるとか、自分の意見の正しさを外に同じもの(意見)を見つけることで安心するというか、確信するという癖があるような気がします。
水越:本書のベースになっているのは「現象学」と言われる話で、元々はドイツの哲学だと思いますが、それが受け入れられたのはむしろ日本の世界で、昔の西田幾多郎の「西田哲学」があります。そういう意味では意外に考え方としては世界的に共通するのかもしれません。
「潜在ニーズを探る方法」は存在するか
佐野:なるほど、わかりました。弊社でも「潜在ニーズを探る方法」を提案しているのですが、「ニーズは潜在的なものではない」と言われるとちょっと困ります(笑)。後で出てくる「ZMET」の話もそうですが、一般に、本当のニーズは潜在意識の中に隠れていて、潜在的なものを掘り出せば何かがわかる、と言われています。もしそうでないとすると、五里霧中というか徒手空拳というか、もはや世界に何を求めていいのかわからなくなってしまいます。
水越:そうですね、それはよく言われます(笑)。僕はこの「潜在ニーズ」もないかなぁと思うのですけど、そのときに「それじゃあどうしたらいいのですか?」と言われる。この「どうしたらいいのだろう?」と思ってしまう思考というのが、まさに自然科学的な発想です。ここに答えがないのだとすると、じゃ、今度はどこに答えを探しに行こうかと考えてしまう。その思考形式自体が社会的な訓練の結果だと思います。たぶんその思考法自体を変えないといけないのです。外側に答えはないと考える訳ですから。もっと強引に変えようとすれば、ちょうどここにあるような「対話」なんですよという言い方をするのが、一つの答えかなと思います。「対話」なんですよ、と言った途端に、答えは相手の側にあるわけではなくて、話さないとわからないのですよ、ということになります。この二人の間というか(二人の間の空間を指して)こういうところにあるものが大事なんじゃないかとか、それをとらえようという、そういう話になるのかな?そんなイメージですね。
水越 康介(みずこし こうすけ)
1978年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。現在、首都大学東京
大学院ビジネススクール准教授。博士(商学)。専攻は市場戦略論(マーケティング論)、
商業論、消費者行動論。
Webサイト:水越康介私的市場戦略研究室 https://www.mizkos.jp
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